第二章:学園の石像

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「え?」
「え?じゃなくてさぁ、だからね?その石像が中等部敷地内のどこかにあるって話だってば。」

昼休み。
食堂で暖かいうどんをすすっていると入間が弁当のエビフライを箸で持ち上げながら言った。
この学校では食堂と弁当の好きなほうが選べる。
好き嫌いの激しい僕はもっぱら食堂の麺類を食すことが多い。

「学校七不思議!朝の話の続きだよ。チャック事件で中断しちゃっただろ?」

「ぷぷ…その話はやめてよ!またぶり返してくるから!」
僕としては“背中にチャック”の話のほうがつぼにはまり
正直まだそれを引きずっているところだ。

「でさ、俺らまだ学園内のことよく知らないじゃん。
ご飯食べたら時間もあることだし探検してみない?」

「ええ?」
「そうそう。その石像がどこなのか探そうぜ。
なんでも夜になるとその石像が歩き出すって話だぜ」
「おいおい、なんだよそれ」
正直そういう話は苦手だ。

「お待たせー」
そこへ蕎麦とうどんをトレーにのせたいわつき(いわつきト)がやってきた。
岩槻(いわつき)豊(ゆたか)。部活は違うがクラスが一緒。
「あれー?今日はデザートないんだ?」
入間が岩槻のトレーを覗き込んでいった。
「うん。ダイエットすることにしたんだ」
そういいながら鏡餅のようなおなかをさすってみせた。
ダイエットって…。
蕎麦とうどんを二つ食べてる時点でもうダイエットじゃないじゃん…と思ったが
それは口にしなかった。

「で?歩き出すって何の話?」
岩槻が奥二重の中にある小さな瞳を輝かせた。
「ああ…入間がさ、夜中に歩き出す石像があるから
昼休みに学園の敷地内歩いて探そうって言うんだ。」
僕はわざとらしくため息をついて見せた。

「あ!面白そう!」
大きなおなかを乗り出して岩槻は目を大きく見開いて見せた。
「だろ?この学園、あちこちに異様なほど石像が多いだろ。
なんでもその歩きだす石像がどれだかわからないようにカモフラージュしてるって話らしいぞ」
「カモフラージュって?」
うどんをすすりながら視線を入間に向けた。
「その石像、昔何かしらの原因で首が取れたらしいんだ。で皆で首を捜したんだけど
なぜか見つからない。仕方がないから新しい首を作って付け替えたらしいんだけど、石像は元の首を今も夜になると探して歩いてるんだとさ」
「ああ…じゃあ首が真新しい石像を探せばいいってこと?」
岩槻が僕と同じくうどんをすすりながら言った。
「そうそう!でね、どうもその石像が中等部敷地内のどこかにあるやつだっていうんだ」
「それ、ソース元はどこ?」
僕は少しその話に引きながらうどんのつゆをすすった。
「え?射川知らないのか?これ桜倉先輩の話だぞ?」

予想外の名前の登場に僕は思わずうどんのつゆをすすりすぎてむせた。

「あはは…知らなかったの?あ、ちなみに言っておくと俺の情報源のほとんど桜倉先輩だから!」
「弦楽部の部長だろ?」
食べ終わったうどんのどんぶりと蕎麦のどんぶりを置き換えて、今度は蕎麦をすすりながら岩槻が言った。
「知らなかった。いつ先輩とそんな話したんだよ…」
少しテーブルにこぼしてしまったうどんのつゆを紙ナプキンで拭きながら聞いた。
「だって先輩と帰る方向一緒だからよく電車の中で話してるんだよ。
射川はいつも一人で帰っちゃうからさ。」
ああ…そういうことか…。
レッスンやなんだかんだで最近一人で帰ることが多かったがその間にそんな会話が行われていたのか…。
桜倉先輩がオカルト話ねぇ…。
あの低い声で怪談話はさすがに怖いかもしれない。

「よし、じゃあ行こうか!」
入間が勢い良く席から立ち上がった。

「え?」
いつのまにか入間も岩槻も食事を食べきっていた。
って…、
岩槻はたった今しがた蕎麦を食べ始めたばかりだと思ったのにすでに完食して
どんぶりのなかには白ねぎのカスが一つあるだけだった。
食べるのが本当に早い…。

「よし、射川も行くぞ」
僕があっけに取られていると目をキラキラと輝かせた入間と岩槻が振り向くポーズをしていた。
「あ…ちょ…ちょっと待ってよ!」
慌ててトレーを持つと僕も後を追って席を立った。

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