-4-
やがて乗っていた電車は学校の最寄り駅に着くと大勢の通勤通学客をプラットホームに吐き出し
次の駅へと急ぐように出発していった。
「よぉ!射川!」
人ごみの中、肩をぽんとたたかれ振り返る。
「入間(いるま)。おはよ」
同じくバイオリンケースを肩から掛けて、ニコニコしている短髪の少年がそこに立っていた。
入間光(いるま ひかる)。
同じクラスで同じ部活仲間。
それがきっかけで仲良くなったのだ。
「射川さぁ、昨日の心霊番組みたかぁ?ありゃめっちゃ怖かったよなぁ!」
「へ?…しん…れい?」
「あれ、見てないの?だめだなー。あんな面白い番組、最近テレビで面白いのあれくらいだぞ」
入間はこういった類の話が大好きで写真を撮ると霊が写っているだの学校の七不思議全部集めようだの
気がつくとそんな話ばかりしている。
「うちの学校も結構多いらしいぜ。怪談話。
開かずの間なんてのもあるみたいだしさ。」
一人オカルト話を楽しむ入間。
そこではっ!とする。
思わず入間の袖を引っ張り人気のないコインロッカーの脇に入った。
「な、なんだよ」
突然引っ張られて驚きつつ少し不機嫌そうな表情をする。
「チャック開いてるよ」
小声でそう言っている自分に照れが入っているのがわかりつつ
その事実を友人に伝えた。
「おっと!失敬!開かずの間より自分の窓閉めろってか!」
照れ笑いしながらチャックを閉めた。
全く。
でも、こいつといるとなんだろうなぁ…
オカルト話はわからないがなんだかんだで楽しいのだ。
それにおちゃらけてはいるがバイオリンは結構な腕前である。
「そういえばチャックといえばさぁ…」
自分の恥を笑いに持っていこうとする、入間のこんなところも好きなのである。
少々下品な話に花を咲かせ爆笑している間に学校の正門をくぐっていた。
「あははは!!
なんだよ、背中にチャックって!!それじゃあ着ぐるみじゃん!」
こいつといると気がつくと爆笑している自分がいる。
「だろ?!“背中のチャックはずしてください”っていうんだけど
そんなのどこにもないんだよぉ。な?やっぱそうだろ?」
「もういいって!やめてー!!おなかが痛い!!」
「朝からにぎやかだなぁ。」
僕と入間の肩がぽんとたたかれた。
「桜倉(さくら)先輩!おはようございます!」
その声だけで人物が特定できるほど
高校生とは思えない貫禄のある低い声が背中から響いてきた。
横瀬桜倉(よこぜ さくら)先輩。高等部の3年で僕らが所属する弦楽部の部長だ。
“さくら”という名前だが正真正銘の男性だ。
響きがきれいという理由で
部員からは苗字ではなく名前で呼ばれていた。
高校3年生ということもあって中学1年の僕らとは比べ物にもならないくらい
容姿は大人っぽく、身長も僕らより頭二つ以上大きかったため
会話するときはいつも先輩の顔を見上げて話した。
「おはよう、今日は第二楽章に入るから二人とも頑張ってついてきてね」
にこりと微笑むと僕の肩ををぽんとたたいて言った。
先に昇降口に入っていく先輩の高い背中に
僕と入間は元気良く返事をはもらせた。
音楽室に入るとすでに大半の部員たちが集まっていて
それぞれ音出しやパートの練習をしていた。
僕が所属する弦楽部は、名前からもわかるように弦楽器による音楽活動をしている。
弦とはバイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの4種類を指す。
たまに吹奏楽部と合同オケをしたりもするが基本は弦だけで活動し
定期演奏会のほかに文化祭やミニコンサート、
老人ホームや施設などに慰問やボランティアに行ったりすることもある。
ちなみに僕と入間、桜倉先輩はバイオリンを担当。
桜倉先輩はコンサートマスターを務めている。
中等部、高等部合同の部活で人数もかなり多い。今は40人強くらいが所属しているため
全員が演奏するとかなりの迫力になる。
今はチャイコフスキーの弦楽セレナーデを練習中だ。
「じゃあ朝の練習を始めます。まずはチューニングから」
桜倉先輩の言葉とともにそれぞれグループを組んでいた部員たちが前を向きなおし
楽器を構えた。
----------------------