第七章:神様の僕4

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夕食はどれも大変おいしいものだった。
採れ立て野菜をソテーしたものや煮込んだものなど
野菜が多く使われている。

元の世界ではあまり好んで野菜を食べなかったが
こちらの世界の野菜は自然な甘みや新鮮な食感があって本当においしい。
味付けはシンプルだが素材そのものがおいしいので箸、いやフォークが進む手が止まらなかった。

食後に、花びらから抽出した花のエキスと蜜を合わせた、
いわば花のジュースのような甘い飲み物を飲んだ。

「そうか…僕が君の世界に行ったら弟さんの病気を治してあげられるのに…」
「いや、イネ=ノだったら世界中の人の病気を治せちゃうと思うよ。
イネ=ノは神様なんだから病気を治すだけじゃなくてもっと色々できるんでしょ?」
「それは…まぁ…でもそれはタブーなんだけど」
とイネ=ノは少し残念そうな顔をしていった。

タブー?

「イネ=ノはこの世界での病人たちを治療して治しているんでしょ?
同じことだとは思うけど。」

「いや…神と言えども行動は制限されているんだよ。
僕の上にさらなる権力をもつ、大神というのが存在していてね、
大神の怒りに触れると神ですら命を落とす。」

「……タブーってなに?」

イネ=ノはグラスをテーブルに置いて僕の顔を真っ直ぐに見つめて見せた。
「死人を生き返らせることだよ。」
「…え?…」
そんな事が出来るのか?
まずそのことに驚いた。

「どんなに優れた力を持っていてもそれが道から外れてはいけないってことなのさ」
イネ=ノはなにかしら残念そうにグラスに入ったジュースをうつむき加減で見つめた。
長いまつ毛が妙に色っぽく見える。

「そうだ…キク=カってどんな人なの?」
なんとなく話を逸らしたほうが良いような気がして気を使って見せた。
「キク=カ?ああ…キク=カね。」
にこりと笑顔が戻るイネ=ノ。
だかどこかしら陰りがあるようにも見えた。

「そう。会う前に話をいろいろと聞いておきたいな。」
僕も笑顔を作って見せた。
いいよ、と頷くとイネ=ノはジュースを一口飲んだ。

「キク=カ。蠍座守護神という名の通り蠍座を守護する神さ。
僕とは違って純粋に花や植物が好きでね、明日案内するけれどそれこそ
キク=カのところは花でいっぱいさ」

これ以上?
このイネ=ノの植物園よりも花がたくさんあるというのか?
思わず驚いてみせる。

「ただ体が弱くてね、僕が主治医みたいな事をしていて…
実は先ほどもキク=カの様子をみてきたところなんだ」

「神様でも病気になることがあるんだ…」
「ああ…それは…」
イネ=ノが微笑んで見せたが辛そうに見えたのは…たぶん気のせいじゃない。
「で、そのキク=カは予知能力があるって…僕がここに来るのも予知したんだよね」
「そう。自分が希望することなら彼は何でも予知することが出来るらしい。
ただ…」
そこでイネ=ノは言葉を切った。

どうしたんだろう。
さっきからなんだか辛そうだ…。

そこでふと思う。

神のタブー、キク=カの病気、予知能力…
もしかして…

「あの…僕が帰る方法も知っているんだよね?」
「え?…ああ、そうだよ。」
「どうやって帰るの?僕は正直どうやってこの世界に来たのか分からないんだ。」
「中心宮へ行くって話しだったよ。」
「中心宮?」
「星々の中心にある宮殿、って言ったらいいのかな?
光を吸い込み、また光を生み出すところがあって場所で
たまに次元にひずみが生じることもある。
それをうまく利用すれば帰れるとキク=カは言っていたが…」

何だろう…
光を吸い込むと聞いて真っ先にブラックホールを思い描いた。
だが、光を生み出すというのはどういうことだろう。
呼吸するみたいに光を吸ったり吐いたりしているのだろうか?

「すまない。少し疲れてしまったみたいだ。
竹人も今夜はゆっくり休んでくれ。
明日は少し遠出をするから…」

そう言ってイネ=ノはすっと席から立ち上がると背を向けたと思った瞬間
ふわりと姿が消えたではないか。

え?!

次いでお休みの言葉が降ってきた。
気がつくと僕はイネ=ノの返事をする前に
自分の部屋に立っていた。


どうしたんだろう…仕事で疲れたのかな?

キク=カのところまで行くのに少し遠いと言っていた。
その少し遠いところに先ほど往復したということだから…

神様が少し遠いという表現を使うんだ。
きっとかなり遠いんだろう。

それにしても不思議な世界である。
神様も病気になったり疲れたり…大変だな…。

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